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10年後にはあるはずの、2つの「地図」

土井 佳彦 (どい よしひこ)

 

 

 僕が日常生活でいちばんよく使う「地図」は、スマートフォンのGoogle mapアプリです。僕が「地図」を見る時は、目的地の地名や施設名、または詳しい住所を知っていて、まずそれを入力します。次に、現在地を入力して、目的地までの経路や距離、移動時間などを交通手段別に表示します。これで、ほとんど「地図」の機能は終了です。周辺に何があるか、ほかにどのような経路があるか、目的地の天気はどうかなどは、面倒なので調べません。

 

 次によく使う「地図」は、カフェマップやラーメンマップなど、地図上に特定のお店を表示してくれるアプリです。この場合は、画面上に表示された複数の候補地から気になるところを選んで、開店時間やfree wi-fiの有無など詳しい情報を得て比較し、これだと思ったところに向かいます。ときどき、行った先で、アプリで得た情報とちがうことがあって困るんですが。

 

 僕は、これからの10年の日本語教育、とりわけ自分が深く携わっている“地域日本語教育”において、この2つの種類の「地図」が必要だと思っています。つまり、1つは自分が知っている目的地と現在地を結び、そこへの経路や到達時間を示してくれるもの。仮にこれを「Aタイプ」とします。もう1つは、自分でも詳しくは知らないけど、ざっくりと目指している方向性に沿った候補地を複数表示してくれ、それらについてある程度詳しく比較できる情報があり、とりあえずそこに行ってみようと思わせてくれるものです。ときどき、事実とちがっていたとしても。仮にこれを「Bタイプ」とします。

 

 “地域日本語教育”におけるAタイプの地図を、僕は今まで見たことがありません。それに近いものとして、たとえば文化庁が提示する『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』があります。学習者が、カリキュラム案にある「生活上の行為 一覧」から自分ができるようになりたいと思っていること(=目的地)と合致するものを選び、それができるようになるために必要な文法や語彙、社会知識を理解し、協力者を得て、必要な時間をかけて勉強することができれば(これが意外と難しいのですが)、おそらく目的地に到達することができるでしょう。

しかし、この「生活上の行為 一覧」に掲載されている項目は限られていて、“検索してもヒットしない”ことも多々あります。他の省庁との役割分担(?)や改訂にかかる予算確保も難しいようなので、しばらくバージョンアップはされないと思います。とても残念ですが。

 

 Bタイプの地図として、僕のイメージにもっとも近いのは、(公財)かながわ国際交流財団が運営するウェブサイト「かながわ日本語教室・学習補習教室・母語教室マップ」です。Google map上に、3種類の教室の位置情報を落とし込み、ピン(目印)をクリックすると教室名とURLが表示され、別ウインドウで詳細情報を見ることができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを利用すれば、自宅や職場の近くの教室を探すこともできますし、詳細情報から直接そこに連絡することもできるかもしれません。このような方法をとる場合、リンク先の各教室情報が多言語化されているか、教室活動の写真が掲載されているなど雰囲気がよくわかり、実際に教室まで行ってみようという気にさせるような工夫がされているか、ということがポイントになります。さらに、リンク先の各教室のサイト内に、教室で提供している教授内容や教授形式(グループorマンツーマン)、生活相談対応の可否、指導者のスキルや受講者の感想、できれば活動の様子がわかる写真やPR動画など、位置情報以外の情報があるともっとユーザーフレンドリーになると思いますので、入口となるウェブサイトの“その先”の充実がカギになります。これについては、支援者だけで考えることなく、ぜひとも利用者となる外国人自身の声に耳を傾けていくことが重要です。

 

 ということで、2025年にはこの2つの地図が存在し、日本語学習を希望するすべての人が、目的地に到達するための機会を得られている状態にあることを目指して、僕は既存の「地図」をバージョンアップしていきます。もし、10年後にできていなかったら、なぜできなかったかをまたこのサイトに書きたいなと思います。

 

 これが、今の僕にとっての「地(フィールド)」と「図(実践)」です。おもしろそうだなと思った方は、いつでもご連絡ください。

 

(2015.11.14)

 

 

《プロフィール》

1979年、広島生まれ。

大学で日本語教育を学び、卒業後、留学生や技術研修生らを対象とした日本語教育に従事。同時に、地域日本語教室にもボランティアとして参加。2008年、多文化共生リソースセンター東海の立ち上げに参画し、翌年の法人認証とともに代表理事に就任。

愛知県内の日本語ボランティアと、教室に通っていない外国人それぞれ100名にアンケート・インタビュー調査を行った結果をまとめた『あいち地域日本語教育白書2015』絶賛販売中!(税込1,080円)

お申込みは、こちら。

[Email] mrc-t@nifty.com

 

【著者HP】 http://mip20028.wix.com/doiyoshihiko

図1 「かながわ日本語教室・学習補習教室・母語教室マップ」

地図データ©2015 Google,ZENRIN

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