嶋 ちはる(しま ちはる)[6章]
「6章 「社会」のなかに学習と学習者をとらえる」
学習と学習者の研究について論じています。
まず、第二言語習得研究における行動主義から認知主義、そして状況主義への変遷を概観します。
そのうえで、知識本の貢献として、状況主義の1つの考え方である社会文化的アプローチが、日本語教育研究に
どのように受け入れられてきたかを明らかにしたことであると述べます。一方で、近年の日本語教育研究において、特に学習者を対象としたものは、依然として量的アプローチが多く、学習を「情報処理」モデルから捉える傾向が根強いことを指摘しています。また、協働学習やアイデンティティ構築と学習の関係について、近年の研究成果をレビューしたうえで、今後の学習・学習者研究に求められるポイントを2点挙げています。1点めは、日本語を学ぶ教室という場の意義とその場における教師の役割の捉え直しです。2点めは、学習者を取り巻く日々の相互行為への注目の必要性です。さらに今後の課題として、多様な学習者が属するそれぞれのコミュニティで、どのように言語が使用され学ばれているのか、言語以外で学ばれているものは何かなどを、第二言語話者だけでなく母語話者も含めて考える必要性を主張します。
(本書「はじめに」より)
国際教養大学 国際教養学部 助教
ウィスコンシン大学マディソン校第二言語習得研究科修了。博士 (第二言語習得)。
主な論文に Co-construction of “doctorable” conditions in multilingual medical encounters: Cases from urban Japan. Applied Linguistics Review, 5(1), 45-72. (共著) がある。学部時代に、外国人患者と日本人医師のコミュニケーションを卒論のテーマとして扱って以来、生活場面、特に医療場面での第二言語使用に興味を持つように。外国人看護師の研究では、彼らと同じアパートに住み、職場に通い、カラオケに付き合いながら一年間言語使用を観察した。彼らの「日本語学習者」だけではない、「看護師」「母」「妻」としての顔や人生設計の悩みに触れ、一人一人の置かれた状況における「日本語学習」の意味を考えるようになった。