松尾 慎(まつお しん)[5章]
「5章 地域日本語教育を問いつづける」
多文化社会の構築と言語教育の役割について、地域日本語教育のあり方を中心に論じています。
まず、知識本による貢献として、地域日本語教育について考える際の「理念」「社会的な必要性」「目標」「活動内容」「活動形態」「ネットワークとコーディネーター」という6つの観点を人権という枠組みから定位したことを挙げます。そして、この6つの観点から、過去10年の研究をレビューし、今後の地域日本語教育のあり方について、いくつかの提案をします。
1点めは、日本語教育、多文化教育、異文化間教育、開発教育、国際理解教育などに関わってきた関係者の協働が必要であることです。2点めは、現場の実践者の協働を推進することに加え、「現場の経験知や暗黙知」「現場のリアルな経験」を事例として蓄積する「実践研究」の必要性です。そして、理念・理想から導き出されるモデルと現場の工夫という両面からの議論を継続するとともに、理念を繰り返し語る重要性が主張されています。
(本書「はじめに」より)
東京女子大学 現代教養学部 教授
大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士( 言語文化学)。
大学卒業後、在バングラデシュ日本大使館に勤務した際、何も専門性がない無力さを痛感。その後、日本語教育に出会い、ブラジルやインドネシア、台湾など海外を中心に活動する。2009年より現所属。移民社会における言語継承、言語管理に関する調査研究を行ってきた。ビルマ・ミャンマー難民のための日本語教室や日系ブラジル人の子どものためのポルトガル語教室などで活動中。多文化社会コーディネーター養成講座 (東京外国語大学) 修了。研究者だけが利益を得るような搾取的研究を回避すること、また、すべての人が公正に参加できる社会づくりに貢献すること、それを課題として研究や実践にあたりたい。